アクリロニトリル( AN )とは?危険物区分は?危険物分類は?AN の主な用途、有害性、および保管時の注意点を徹底解説

アクリロニトリル(Acrylonitrile/略称:AN)は、材料、カーボンファイバー、樹脂原料、排水処理、半導体、繊維など、さまざまな分野で広く使用されている非常に重要な化学工業原料です。しかしながら、ANは引火性および毒性を有する危険化学物質に分類されており、保管や輸送方法を誤ると重大な人身事故や財産被害につながる可能性があります。

本記事では、ANの主な用途や危険性を解説するとともに、安全な保管・取扱い方法をわかりやすくご紹介します。

1.  アクリロニトリルとは?危険物分類と主な用途

アクリロニトリル(Acrylonitrile、略称:AN)、HSコード:2926 1000 005 は、プロピレンを原料とする有機シアン化合物であり、化学式は C₃H₃N、分子式は CH₂=CH–C≡N です。
国連の危険物分類では、クラス3(引火性液体)およびクラス6.1(毒性物質)に該当し、危険物UN番号は1093に指定されています。

物理的性質:

沸点:約 77°C

密度:約 0.806 g/cm³(20°C)

エタノールやエーテルに可溶、水にはわずかに溶ける(微溶性)

化学的性質:

非常に高い反応性を持ち、分子内に炭素-炭素の二重結合とニトリル基(–C≡N)を含んでいます。

重合反応を起こす性質があり、特にラジカル重合によってポリアクリロニトリル(PAN)を生成します。

また、水やアルコール類と付加反応を起こすことが可能です。

アクリロニトリルは、第1位と第2位の炭素原子、さらに第3位の炭素原子と窒素が不飽和結合で連結しており、構造上、アルケン(オレフィン)およびニトリル化合物の性質をあわせ持っています。そのため、反応性が非常に高く、重合によって高分子化が可能であるほか、さまざまな物質と反応して有機合成の中間体としても広く利用されています。主な用途は以下の通りです:

(1)高分子モノマー

アクリロニトリルは不飽和結合を有しており、ラジカルを生成して重合反応によりポリアクリロニトリル(Polyacrylonitrile、略称:PAN)を形成することができます。
PANはカーボンファイバーの前駆体として使用され、耐食性・耐熱性・耐放射線性に優れ、軽量かつ高剛性を備えているため、自動車の骨組み、航空機の複合材料、風力発電機のブレードなどの製造に利用されます。

また、アクリロニトリルはブタジエン、スチレン、酢酸ビニル、メタクリル酸メチルなどと共重合することで、プラスチック改質剤、ニトリルゴム(NBR)、ABS樹脂、SAN樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、アクリル繊維、アクリル接着剤、ポリエーテルポリオールなどの原料としても使用され、高分子材料、繊維産業、化学工業、プラスチック、半導体材料など幅広い分野で応用されています。

(2)アクリロニトリル誘導体の原料として

アクリロニトリル(AN)は、アルケン結合およびニトリル基などの不飽和結合を同時に有しており、化学的反応性が非常に高いことが特徴です。そのため、多くの化学薬品と反応して、さまざまな誘導体を合成することが可能であり、代表的なものとしては、アクリルアミド、アクリル酸、アクリル酸アンモニウム、メタクリル酸メチル、アジポニトリル、アセトニトリル、プロピルアミンなどが挙げられます。

これらの誘導体は、材料、触媒、有機合成中間体として重要な役割を果たしています。

(3)高分子凝集剤としての用途

アクリルアミド(Acrylamide、略称:AM)は、アクリロニトリル(AN)から誘導される化合物であり、重合反応によってポリアクリルアミド(Polyacrylamide、略称:PAM)が合成されます。

PAMは、水中の懸濁粒子を吸着する特性を持っているため、汚水処理において広く使用されています。
小分子を二次的に吸着し、より比重の高い高分子へと変化させることで、不純物を沈降させ、水質を浄化する効果があります。

また、PAMは長鎖の分子構造を持ち、多数のアミド基を分岐として有しており、活性が高く、電荷を帯びているため、イオンの吸着や他の物質との反応を通じて誘導体を形成することができます。
これにより、土壌改良剤、ゲル素材、他の高分子材料、架橋剤などとしても利用されています。

2.   AN(アクリロニトリル)の危険性を正しく理解する

アクリロニトリル(AN)は、反応性のある物質と接触すると発火・発熱・液体の飛散を引き起こす可能性があり、反応時にはシアン化水素(HCN)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO₂)などの有害な煙やガスを放出します。

ANは人体に対して一定の毒性を持ち、目、皮膚、呼吸器系に刺激性があるほか、発がん性の可能性も指摘されています。万が一接触した場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。以下は具体的な健康への有害性の一例です:

  • 皮膚との接触:水疱やアレルギー性皮膚炎を引き起こす可能性があります。
  • 誤飲した場合:咽頭痛、呼吸困難、嘔吐、下腹部の痛みなどの症状が現れ、重篤な場合は致死的となることもあります。
  • 眼への接触:強い刺激や灼傷、角膜損傷を引き起こし、失明のリスクがあります。
  • 吸入した場合:ANはシアン化物の一種であり、体内の酸素利用機能を妨げることで、低酸素症(酸欠)を引き起こします。主な症状には、頭痛、めまい、嘔吐、ふるえ、下痢、運動失調、肝機能障害などがあり、重症化する恐れがあります。

3.   ANの正しい保管方法と取り扱い上の注意点

(1)冷暗所かつ換気の良い場所に保管すること

アクリロニトリル(AN)は、涼しく換気の良い場所に保管する必要があります。光に対して感受性が高いため、直射日光を避けることが重要であり、変質や重合反応を防ぐために容器内には阻害剤(安定剤)を添加する必要があります。また、ANは酸化剤、過酸化物、酸類(硫酸、塩酸、硝酸)、アルカリ類(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)、アミン類、他のニトリル化合物、銅・アルミニウムおよびそれらの合金・化合物、ハロゲン類(塩素、臭素、ヨウ素)とその化合物などと接触すると、重合、爆発、発熱反応を引き起こす可能性があるため、これらの物質とは接触しないようにし、単独で隔離保管することが求められます。これにより、安全事故のリスクを低減することができます。

(2)包装は密閉処理を施すこと

アクリロニトリル(AN)は、抑制剤(インヒビター)を添加していない状態で空気に触れると、容易に重合反応を起こし、容器内の圧力が急激に上昇する可能性があります。
その結果、容器が破裂する恐れがあるため、取り扱いには十分な注意が必要です。

また、ANは有毒物質であり、空気中に拡散すると人体に深刻な健康被害を及ぼす恐れがあります。
このため、ANを保管する容器には必ず抑制剤を添加し、さらに密閉性を確保した遮光性(光を通さない)包装材を使用することが求められます。

(3)危険物表示を必ず貼付すること

アクリロニトリル(AN)を保管する容器には、必ず適切な危険物表示(ラベル)を貼付する必要があります。
これは、作業員に対して当該化学物質の性質や取り扱い時の注意事項を正しく伝えることで、輸送中および作業中の人身・環境へのリスクを軽減するためです。

万が一、輸送中に事故や漏洩などの緊急事態が発生した場合でも、危険物表示があることで関係者が速やかに適切な応急処置を実施することが可能になります。

>>>関連記事:危険物とは?分類と輸送規制をわかりやすく解説

(4)作業員は適切な防護措置を講じること

アクリロニトリル(AN)は、引火性液体および毒性物質に分類されており、人体が接触または吸入することで健康に害を及ぼす可能性があります。したがって、作業員は保護手袋、防護服、防毒マスクを着用し、専門的な安全教育と訓練を受けた上で取り扱う必要があります。

(5)火花を発生しやすい工具の使用は禁止

アクリロニトリル(AN)は、火気、高温、静電気に接触すると爆発を引き起こす可能性があり、火災の原因となるだけでなく、有毒なガスを発生させるため、人命や財産に重大な危険を及ぼすおそれがあります。
したがって、ANの保管・使用・輸送においては、火花を発生させやすい工具の使用を避ける必要があり、使用する工具は金属ではなくプラスチック製などの非導電性素材が推奨されます。
また、作業環境は確実に無火源であることを確認しなければなりません。

(6)保管エリアには緊急対応設備を設置すること

アクリロニトリル(AN)の保管エリアには、万が一の事故や漏洩などに迅速かつ適切に対応できるよう、緊急処理設備を必ず設置する必要があります。
事故発生時における初期対応の遅れが重大な被害に繋がる可能性があるため、常時使用可能な状態に保ちます。また、緊急対応設備およびMSDS(安全データシート)は、誰でもすぐに確認・入手できるように、明確で目立つ場所に設置・掲示してください。

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掲載日 : 2025 年 01 月 06 日

 
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